鉄路を走れ!くまチャリで走れ!

鉄路を走れ!くまチャリで走れ!

列車は線路の上を走る。当たり前のことができなくなった時、くま川鉄道株式会社は線路の上に自転車(チャリ)を走らせることを思いついた。大水害で運行不能になった区間を、観光客が「くまチャリ」をこいで走る。くま川鉄道の復旧を目指して走る。

鉄路を走れ!くまチャリで走れ!

運行休止区間を活用
九州初のレールサイクル

くま川鉄道はJR人吉駅に連結する「人吉温泉駅」と湯前(ゆのまえ)町の「湯前駅」を結ぶ全長24.8㎞の第三セクター鉄道。大正13年(1924)に開業した旧国鉄湯前線が前身だ。今年3月で湯前線100周年を迎えたが、2020年7月の「令和2年熊本豪雨」で全保有車両5両が浸水し、線路と駅に土砂が流入、鉄橋の球磨川第四橋梁が流出するなど、甚大な被害を受けた。一時は全線運休したが、今も人吉温泉駅と肥後西村駅区間は運行休止し、代替えバスによる運行がなされている。

鉄路を走れ!くまチャリで走れ!
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赤字路線のローカル線にとって、コロナと自然災害のダブルパンチだった。しかし、それならと運行休止区間の線路を観光用の体験コースに転換したのが「くまチャリ」。岐阜県の旧神岡線(廃線)を活用した「ガッタンゴー」をヒントに、2台の電動アシストサイクルを連結させ、2人掛けシートを備えた「4人乗りサイクル」だ。被災翌年から導入し、春から晩秋までの期間運行ながら「観光客からの人気は上々」と、くま川鉄道株式会社の下林孝課長。
乗車場所は相良(さがら)村の「十島(としま)菅原神社」入り口のくま川鉄道線路脇。ここで料金を払うことに。乗車は2名から4名までとし、2名で4,000円、プラス1名ごとに500円追加で4名なら5,000円だ。自転車を運転するには身長145センチ以上であること、小中学生には保護者同伴を義務付けている。ヘルメットを装着し、アルミカートの下林さんの先導で、線路をこぎ出す。

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森のトンネルを走り抜け 線路を独占する快感に浸る

走行できるのは現在運休の「川村駅」手前から「相良藩願成寺(がんじょうじ)駅」の踏切手前の地点。距離にして片道約1.7kmを往復する。時間にすれば約30分だ。電動アシストサイクルのお陰で走り出しは好調。足元から「ガッタン、ゴットン」の音が響く。列車の歯切れの良い「ガタンゴトン、ガタンゴトン」の連続音とは違い、そこは人力走行の4人乗りだから「ガッタン、ゴットン」と間延びしている。線路のつなぎ目にくまチャリの台座金具が触れる度に、のんびりとしたガッタン、ゴットンの音。チャリであり、電車のようでもあり、爽快感とのどかさが同居している。

鉄路を走れ!くまチャリで走れ!
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チャリはすぐに「森のトンネル」と呼ばれる区間に入る。文字通り木々の間を疾走する爽快感がある。木漏れ日が目の前で揺れ、風が心地よい。真夏でもやはり涼しい。湧き水だろうか、細い水流が線路脇を流れるか所もある。森の切れ目では左手に球磨川が見えてくる。日本三大急流の一つである球磨川は、急流下りやラフティング、そして鮎釣りなどのリバーレジャーが楽しめる川でもある。球磨川があるからこそ、豊かな水資源によって稲作が豊かで、700年の平和が保たれたという。水害があっても球磨地方には欠かせない存在だ。

鉄路を走れ!くまチャリで走れ!
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あっという間のチャリ旅
ラストランまであとわずか

さて、折り返し地点である「願成寺」に到着。ここでいったん休憩になる。線路脇には休憩用のいすが置かれ、木陰で一息つける。近くには人吉の古刹「相良藩願成寺」や「観音禅寺」があると下林さん。チャリの方向転換はいたって簡単だ。下林さんが台座中央のレバーを上げ、列車内の半回転シートの要領で台座を半回転させる。再び今度は「十島菅原神社」を目指して漕ぎ出す。
ガッタン、ゴットン、ガッタン、ゴットン…。ゆるやかな傾斜を上り、下り、森の中を潜り抜け、童心に帰っている。映画「スタンド・バイ・ミー」のようであり、古くは「小さな恋のメロディー」のラストシーンのようでもある。時間にして約30分のチャリ旅。線路を人力で走行できるのは九州では唯一ここだけだ。そしてこの「くまチャリ」は実は今年の11月24日で終わる。2025年に球磨川第四橋梁が新たに架けられ、くま川鉄道が全線復旧するのだ。惜しいが、やはり鉄道は住民の足。名物列車「田園シンフォニー」が全線を走る日が再び訪れるのだ。全線復旧に向けて、「くまチャリ」のラストランが始まっている。この機会を逃さずに、ぜひ体験してほしい。

くまチャリ予約フォームはこちら

くま川鉄道株式会社
熊本県人吉市中青井町265
0966-23-5011
くま川鉄道株式会社公式サイト

ちょっとついでに… くまチャリ立ち寄りスポット

鉄路を走れ!くまチャリで走れ!
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くまチャリ乗車地の隣にある「十島菅原神社」にも立ち寄ってみよう。

茅葺屋根が目を引く本殿は国重要文化財に指定されている。13世紀の草創で、現在の本殿は安土桃山時代のもの。境内の池に島が十あり、「十島」を「としま」と読むことから「願いをとおします」の縁起があるとか。祭神は学問の神様菅原道真。そのため受験生が「とおします」の合言葉で祈願に来るという。

熊本県球磨郡相良村柳瀬2240
0966-22-7757

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相良藩願成寺駅周辺はやはり駅名由来の「相良藩願成寺」へ。

同寺は領主相良氏の菩提寺であり、1233年に創建された。郡内最高位の寺であり、境内裏の墓地は江戸時代中期に藩主の命で、各地に散在していた歴代領主・一族の墓を集合させたもの。多数の五輪塔が立ち並び、大名墓地としての威容を誇る。
さて、人吉市は美人湯で知られる温泉地。格安の共同浴場がいくつもある。くまチャリの汗を温泉で流してはいかが?「相良藩願成寺温泉」は駅からも寺からも近い。しかも入浴料はなんと200円!泉質はナトリウム炭酸水素塩・塩化物泉で、もちろんかけ流し。昭和レトロな湯で地元の人情もある。

相良藩願成寺
熊本県人吉市願成寺町956
0966-24-4161
参拝時間 9:00~17:00
定休日 無休

相良藩願成寺温泉
熊本県人吉市願成寺町404-1
0966-24-6556
営業時間 6:00~10:00、13:00~22:00
定休日 無休

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