白壁土蔵の小さな集落へ ぶらり大人の散歩旅

江戸時代末期から昭和初期まで、各地に造られた白壁土蔵の商家の町並み。

熊本県宇城市にある港町「松合集落」は、昔から漁業が盛んで肥後藩の要港でもあった。人が多く行きかうことから商家も多く、その名残が「松合白壁土蔵群」として今も残っており、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されている。その存在は知る人ぞ知るだが、だからこそ、手つかずの魅力があり、初めて訪れるのに「懐かしさ」を感じる。

醸造と漁業で栄えた不知火海沿いの集落

松橋インターから天草方面へ、宇土半島南側の八代海沿いの国道226号を走る。陽光を浴びた海面はキラキラと輝き、美しい。八代海は不知火海とも呼ばれる。旧暦8月1日の深夜に海上に謎の火が浮かび上がる。蜃気楼現象の一つだが、景行天皇ゆかりの伝承と共に「誰も知らぬ火」すなわち「不知火」の名がいつしかこの海の別称となった。
「道の駅」不知火を通り過ぎて間もなく松合集落に到着。目立った観光用看板もなく、気づかず通り過ぎてしまうような集落だ。だが、江戸時代から明治初期にかけては漁港として栄え、廻船問屋や海産物商などの商業、みそ・しょう油、酒の醸造業で賑わった。一方で火災も多く、防火用の土蔵や白壁を用いた家屋が建てられ、火除け道と呼ぶ小道が設けられた。

1999年の高潮被害で77棟が全半壊した影響もあり、集落に今も残る白壁土蔵の建造物は少ない。それでも集落の人々は残った白壁土蔵の家屋を大切に守っている。「松合郷土資料館」は個人宅であり、一時は郵便局を兼ねていたという。集落最盛期の明治36年(1903年)建造。見学は2軒隣の管理人室に頼むことに。無料公開で管理人が親切に説明してくれるのも嬉しい。
さて、松合集落トリビアをここで一つ。
1998年に話題になったホラー映画「リング」。真っ黒い長い髪でずるりと井戸から出てきたかと思いきや、画面からも出てくるというシーンが怖くてたまらないあの「貞子」の母は実在の人物とされていて、実はこの松合出身だということがこの資料館でわかるのだ。
「千里眼」透視という不思議な力を持つことで一躍、時の人となった女性御船千鶴子さんの生家を訪ね、その歴史を知るのも面白いかもしれない。

名称松合郷土資料館
所在地〒869-3472 熊本県宇城市不知火町松合136-1
電話 0964-42-3560
営業時間10:00~17:00
休館日月曜・木曜(祝日の場合は翌日)・年末年始

果樹園農家が営む白壁古民家カフェ

ひっそり静まり返った松合集落に一軒のタルト専門店がある。「うちやま果樹園」が営む「果実のタルト 天満屋」だ。
「天満屋」は元みそ・しょう油屋で建物は築130年になるという。地元で生まれ育った若手果樹農家の内山貴博さん・エリカさん夫婦が昨年6月に開いた。実はエリカさんの曽祖父が「天満屋」で丁稚奉公していたとか。軒先には当時の看板が掲げられている。

旧商家の広い土間にショーケースが置かれ、果樹園直送の果実で作った新鮮なタルトが並ぶ。その奥にもかつての看板が立てられ、頑丈な梁や年代物のランプ、急傾斜の階段など往時を偲ばせる。巨大なしょう油樽が座敷にデン!と鎮座。

雰囲気の良い空間でとても落ち着く。時間もゆっくりと流れているように感じる。

そのレトロな佇まいの中、宝石のように美しいタルトをいただく。季節ごとの果実のフレッシュな味わいが広がる。ドリンクは店自慢の「マイヤーレモンソーダ」を。マイヤーレモンとはオレンジを掛け合わせたレモンの品種だとか。酸味と甘みが調和したすっきりとした味わい。果樹農家の魅力を存分に感じる。時を刻んできた旧商家が醸し出す雰囲気と共に、ゆっくりと過ごせる。休日を過ごすにはふさわしい。

名称果実のタルト 天満屋(うちやま果樹園)
所在地〒869-3472 熊本県宇城市不知火町松合854
電話 0964-42-2351
営業時間11:00~17:00
休館日水曜

早起きは三文の徳! 月一度の朝市は大賑わい

目立たず、小ぢんまりとした白壁土蔵の集落が早朝から賑わう。それが毎月第3日曜の朝6時から始まる「まっちゃ朝市」だ。


地元有志が集まり「まっちゃ活かそう会」を結成、平成4年(1992年)から始まったという。実はこの会の現会長が内山貴博さんだ。長らく会を牽引してきた坂本順三初代会長の後を引き継いだ。朝市は会員たちがボランティアで運営する。朝市に出るのは地元漁師や農家の産物。山海の幸が会場に並び、手作り総菜なども売られる。

この朝市、30年余り続いて近隣ではすっかり定着している。毎回、熊本市や宇土市など近郊から客が集まってくる。安くて新鮮な魚・野菜がお目当てなのはもちろんだが、名物の「エビだご汁」は毎回あっという間に売り切れ。早朝から詰めかける客にとっては朝食代わりなのだ。

そしてもう一つの名物がみその詰め放題。集落に今や一社残った老舗のみそ・しょう油メーカー「松合食品」がみそを提供する。こちらも順番を待つ長蛇の列ができ、参加者は1グラムでも多くみそを袋に詰めようと手に力が入る。「まだまだ入る、まだ入る」と男女問わずみそを袋に押し込んでいく。元は充分取っているはずでも、それが人の心理。

他にもじゃんけん大会やトゥクトゥク試乗体験などもあり、朝市は8時で終了。参加者は松合の山海の産物、みそを手に帰っていく。そして翌月もやって来る。松合集落には隠れファンがいる。

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