いつまでも、どこまでも走れ!平成筑豊鉄道に乗ってみた
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筑豊地方を走る第三セクター鉄道、平成筑豊鉄道は岐路に立たされている。存続か廃線か。日本各地で地域を支えてきたローカル鉄道が赤字経営で、あるいは災害被災で消えつつある。何とか残らないかな、平成筑豊鉄道。って、もっぱら車移動で今さら何をと言われそうだが…。ならば乗車して平成筑豊鉄道と沿線の魅力を探ろうじゃないか。いざ、出発進行!
一日乗車券を買って乗り放題

博多駅から福北ゆたか線で直方駅へ。平成筑豊鉄道(以下、へいちく)の始発駅である直方駅が乗り入れしているからだ。福北ゆたか線のホームからへいちくの列車が見える。へいちくの改札口に行って、まず戸惑った。切符自販機はあるが、駅員がいない。一日乗り放題の「ちくまるキップ」ってどこで買うんだ?
そこへ運転手さんがやってきた。「ちくまるキップ、買いたいんですが」。「車内で販売しますよ」。実はへいちくの直方駅は無人駅で、一日乗車券は車内で直接運転手さんから買うシステムなのだ。この乗車券、一日乗り放題で沿線にある3か所の温泉施設のうち、1つが無料で利用できる。温泉好きにはこれが魅力だ。

さて車両は1両でワンマン運転。平日の朝10時を回り、通勤通学の時間帯ではないためもあって乗客は少ない。直方駅を出て電車が走り出す。街中の風景から次第にのどかな景色へと移っていく。目の前の吊り革を見ると、キャラクターの「ちくまる」の下に何やらメッセージが書かれている。「ばん馬のマツは帯広動物園に転職しました」…。
「ちくまるつり革」は沿線地域の企業や団体、あるいは個人がメッセージを載せるオーナー制の吊り革だとか。大多数がへいちくへの応援メッセージだ。地域に支えられているなと実感。それにしても「ばん馬のマツ」って。因みに「ばん馬」とは重量物を馬に曳かせて競うばんえい競馬の競走馬のこと。へいちくとどんな関係があるんだろう?そんなことを考えている間も電車は走る。



乗って分かる!各駅の奥深さ!

へいちくは明治半ばに私鉄の九州鉄道が筑豊鉄道と合併し、炭鉱景気に賑わう筑豊地方で鉄道輸送を担った路線がルーツだ。明治末の国有化で国鉄(JR)となり、後の民営化で福岡県や沿線自治体などが3路線の運営を第三セクターとして引き継いだ。それが平成元年(1989年)のこと。だから「平成筑豊鉄道」と名付けられた。しかし、筑豊の炭鉱は閉山で姿を消し、かつての華やぎはない。
駅舎も無人駅で時間に取り残されたかのように古びている。直方駅から4つ目の駅「中泉駅」もご覧の通り古い。が、よく見ると改札横に「理容フジタ」のドアが。かつての駅事務室で営業しているという。無人などではなく、理容室の主人が駅を守っているのだ。

金田(かなだ)駅でいったん下車。この駅はへいちく唯一の有人駅で、直方駅・田川伊田駅間の伊田線と金田駅・田川後藤寺駅間の糸田線との分岐駅だ。実は国内の鉄道キップで「カナダ」に行けるというシャレで鉄道ファンには人気なのだとか。ここで鉄印を自販機で購入する。同じく「ちくまるキップ」利用者と思しき人物も買っていた。この駅前からは午前中のみだが「日王の湯」と「ふじ湯の里」への送迎バスが出ている。同キップ利用者なら無料で入浴できる。そしてこの駅舎で立ち飲み店を発見。夕方になると開店するのだろう。電車を降りて、帰宅前のちょいと一杯!いいね。



1時間に1本の電車をのんびり待って、再び乗車。田川伊田駅を過ぎると終点行橋駅までは田川線となる。「赤駅」の駅名標はその名の通り地が赤。駅前からは、毎年3月から11月の毎月第2日曜に可愛いトロッコ列車が運行される。「赤村トロッコ油須原(ゆすばる)線」だ。実は油須原線とは炭坑用の鉄路として造られながら、使われることなく廃線となった「幻の鉄道」だそうだ。赤村の有志が運営し、乗車料金(大人600円・子ども300円)は赤駅周辺の整備などに寄付されるという。事前予約は不可。赤村役場へ問い合わせを。
☎0947-62-3000(写真提供赤村役場)

「油須原駅」で再び下車。この駅舎の趣、鉄道ファンでなくても刺さる。豊州鉄道の駅として明治28年(1895年)に開業。130年を超えた駅舎は無人駅となってからも42年が過ぎた。それなりに老朽化が進み、4年前に赤村と西日本工業大学が復元改装したのだとか。アルミサッシ窓を木の桟が入った木製窓にし、アルミ製の扉も木製に交換。照明もレトロな電球に変え、明治の面影を復元したという。
現在は「赤村トロッコ油須原線」運行時に、「月イチゆすばる駅マルシェ」を開催し、地元の飲食・物販店が出店。駅事務室のタブレット閉塞機の使用体験ができる。地域と駅の結びつきは今も根強いのだ。


温泉に銘酒、休日の沿線ぶらぶら

油須原駅からはちょっとウォーキングを兼ねて隣の「源じいの森温泉駅」へ。日中は1時間1本の運行だけに、次の電車を待つよりは約20分歩くのが健康にもちょうど良い。ほぼ線路沿いに一直線で行けるのも都合が良い。途中にレンガ造りの大谷川架道橋を発見。豊州鉄道開設時に架けられた鉄道架橋だ。トンネル幅は狭く、軽自動車一台が通り抜けられる程度。
さて、源じいの森はキャンプ場、宿泊施設や温泉、レストランを備えた村営施設だ。日帰り温泉施設は「ちくまるキップ」で利用できる。駅と直結しており、敷地内を線路が抜ける。日本初の時速100キロで走る車掌車が屋外展示され、鉄道ファンには興味深いだろう。ここから九州最古の鉄道トンネル、石坂(いっさか)トンネルも見える。国登録有形文化財でもある。
レストランでランチを取ってから温泉へ。広い大浴場には露天風呂が2か所あり、一つはジャグジー付き。無色透明の単純温泉で神経痛、筋肉痛、冷え性などに良いという。次の電車の時間を気にしつつ、ゴクラク極楽。因みにレストランのランチもなかなか美味しく、印象に残った。



そして湯上りの体で三度目の乗車。隣駅の「崎山駅」を目指す。ここでの目的は酒蔵訪問だ。やがて車窓からその酒蔵が見えてくる。いかにも歴史がありそうな酒蔵の壁とレンガ煙突に「九州(くす)菊」の銘柄名が描かれている。崎山駅からその「林龍平酒造場」へは徒歩10ほど。英彦山を源流とする今川と県道に挟まれた地にある。
同酒造の創業は江戸時代末期の天保8年(1837年)。190年近い歴史がある。京築地区で唯一残る造り酒屋だ。「残心」という酒が美味いという噂を聞いていた。JR九州の「ななつ星in九州」の車内でも取り扱われている。「残心」を所望すると、「あいにく直売はしていないんです」という返事。時期的にも作っておらず、某有名百貨店などで購入をとのこと。残心、残念なり。
気を取り直して「九州菊 純米吟醸」4合を2本購入した。へいちくキップで旅していると言うと、へいちくカレンダーを頂いた。「平成筑豊鉄道、残してほしいですね。グルメ列車のとことこ列車は人気です。沖縄から団体で乗りに来られてしていますよ」と蔵主の奥さん。へいちく頑張れと、今夜はこの酒で。


車内も車両も多彩なローカル線

一日乗車券を使っての旅は終点の行橋駅まで行って終了。直方駅同様、JR日豊線の行橋駅と連結している。乗車して気づいたのはその車両の個性。企業のラッピング車両、開業時のカラーを引き継ぐ412号車、黄色の車体の「なのはな号」、緑の車体の「ちくまるLINEスタンプ号」、そして明るくポップなアートが施された「スーパーハッピー号」がある。「スーパーハッピー号」は世界中で壁画を残す活動をしている画家ミヤザキ・ケンスケ氏が下絵を制作。それに地域の子どもたちが彩色したという。車内もご覧の通り、床や座席、ロールスクリーンまでワクワク楽しい雰囲気に。
そしてグルメ列車「ことこと列車」はレストラン厨房を備え、車体は鮮やかな深紅。デザインを手がけたのは「ななつ星in九州」でも有名な水戸岡鋭治氏だ。内装も「ななつ星」と同じく表具に福岡県の伝統工芸の大川組子を用い、天井にはドイツ製ガラスのステンドグラスを施し、高級感を出している。客室全長にステンドグラスを用いたのは国内初という。また、黒い車体が力強さを感じさせるサイクルトレイン「黒銀」も見逃せない。こちらは水戸岡鋭治氏の弟子だった浦島健多氏がデザイン。車内に自転車ラックを搭載し、ブラックメタリックの色は筑豊の栄華を築いた「黒いダイヤ」、石炭をイメージしている。
筑豊の足を支えてきた平成筑豊鉄道、これからも、いつまでも走り続けてほしい!


平成筑豊鉄道株式会社
| 所在地 | 福岡県田川郡福智町金田1145-2 |
|---|---|
| 電話番号 | 0947-22-1000 |
| 公式サイト | https://www.heichiku.net/ |