九州ヒト・コト・モノ 朝市主催まっちゃ活かそう会
熊本県宇城市の松合集落では毎月第3日曜の早朝、恒例の「まっちゃ朝市」が開催される。1992年から続く朝市は、地元有志の「まっちゃ活かそう会」が始めた町おこし行事。同会は明治になるまで醸造業と漁業で栄えた町の活性化を担ってきた。初代会長の後を昨年継いだ内山貴博さんに松合集落と朝市への想いを語っていただいた。

Uターンで果樹栽培 地域おこしへの前奏へ
集落出身の内山さんは祖父母が果樹農家、父が養豚業の家で育った。高校卒業後、就職で地元を離れたが20歳でUターン。父が始めた果樹園を手伝ったが「果樹農家を継ぐつもりはなかった」という。しかし、いつしか果樹栽培が楽しくなっていった。
「果樹栽培は実を結ぶまで時間を要し、台風などの苦労も多い。でも、徐々に規模が広がり、良い肥料指導者にも会えて美味しい果実ができるようになりました。」
自身が代表を務める「うちやま果樹園」で地元発祥のデコポンやシャインマスカットなどを栽培し、「道の駅うき」にも出荷しているという。

町おこしに関心を持ったのは母校の松合小学校が閉校になった5年前。
市が町おこしコンサルタントによるワークショップを開く中、古民家ホテル再生事業者から廃業したみそ・しょう油蔵の建物を古民家ホテルに再生する話が出た。その事業主に内山さんと若手同業者が手を挙げた。地域会社設立の補助金も取れたが、事業融資が下りずに古民家再生ホテルは頓挫。コロナも重なった。それでもその商家を自費で買い取った。それが「天満屋」だ。
「築130年の母屋と蔵を自費と補助金で買い取りましたが、土地家屋の購入費より改装費が大きかったですね」と笑う。自家栽培の果実を使ったタルトの店として昨年オープンさせた。タルトは主に妻のエリカさんが作る。「宿泊施設ですか?それもゆくゆくは考えていますね」。その言葉には松合集落への愛着と活性化への希望が潜んでいる。


たちまち会長のポストに! 地域起こしの中心にいよう!

さて、30年以上続く「まっちゃ朝市」だが、内山さんは「朝市が始まったのは私が小学校高学年の時で、朝市を遠くから見ていた程度。あまり関心はなかったですね」と振り返る。参加を始めたのはコロナ期の頃だったが、朝市は実質休止状態だった。「本格的に参加し始めたのは再開した23年ぐらいです」。動機はやはり町おこしが目的だった。

朝市を再開させるなら若手が手伝って明るいニュースにしよう。そんな想いがあった。その時点では朝市の手伝いの一人という認識だった。ところが2,3か月後に突然、会長に推挙され、あっという間に新会長に。「スピード出世ですよね」と笑う。当時はタルト店の開業準備と同時進行でもあったが、「地域を盛り上げる中心にいよう」と覚悟を決めた。

そもそも明治以降、衰退の一途をたどる松合を何とか活性化させたい。そんな想いで初代会長の坂本順三さんら有志が会を結成させ、続けてきた「まっちゃ朝市」。熊本県内でも歴史が長い朝市になっている。当初は坂本さんらが呼子などの朝市で見学研修し、工夫を重ねてきた。地元のみそ・しょう油メーカーの松合食品も協力してきた。その歴史を担い、次の歴史を紡ぐ。しかし、その気負いを内山さんは感じさせない。
「町おこしで人と出会い、やりたいことが見つかり、視野が広がるので、楽しくやれていますよ」。自ら楽しんでやることで、朝市を手伝う若手仲間が増え、朝市が好転していると感じている。「変わっていくのは楽しい」。変化を恐れない。その背中を坂本さんらが押してくれるという。「だから朝市に関わってくれる人みんなが好き」。


歴史ある町の朝市を起点に 新たな価値を生み出したい

改めて松合集落について語ると、やはりふるさとへのポジティブな気持ちがあふれてきた。「松合集落には歴史があり、人は歴史に興味を持ってくれる。その意味で恵まれていますよ」と。農業が元気なのも魅力だ。果樹農園を中心に若手が帰郷してきている。町の漁業は衰退したとはいえ、海の幸、殊にエビやカニは旨く、味が濃いと胸を張る。
「朝市はこの町を知ってもらうきっかけになります。自分がやるべきことは白壁土蔵の集落の建物を活かし、新しい価値を生み出すこと。私がこの町の価値を知っているから」。
町の集客力を高めるためには飲食店や宿も必要だという。内山さんの「天満屋」を含め、スイーツ系の店は増えてきた。実はつい最近「天満屋」の3軒隣に惣菜店がオープン。早速、朝市メンバーに引き入れた。「キーワードは『朝ご飯』。朝市朝ご飯で総菜やおにぎりを提供します」。朝市が飽きられないよう、これからも変化が必要だと考えている。「変わっていくのは楽しい」の言葉通り、松合集落の「まっちゃ朝市」は魅力ある変化を見せてくれるだろう。
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白壁土蔵の小さな集落へ ぶらり大人の散歩旅
