空を泳ぐカツオがいる⁉ 枕崎の街をぶらり散歩
空を泳ぐカツオがいる? 枕崎の街をぶらり散歩
鹿児島県枕崎市は鰹節の生産量と質で日本一を誇る。薩摩半島の南端に位置し、東シナ海に面した人口2万人ほどの街は鰹節あっての街。水産加工業の8割が鰹節製造業だ。街を歩けば「枕崎鰹節」のロゴ看板が目につき、鰹節の香りがする。そして空にはカツオが泳いでいる?枕崎をぶらり散歩してみよう。
カツオのぼりにカツオオブジェ 鰹節の歴史もさりげなく
枕崎が鰹節の生産を始めたのは江戸時代中期、18世紀初頭だという。土佐や紀州、同じ薩摩の屋久島の鰹節に後れを取っていたが、紀州から鰹節づくりの職人を招き、漁船や漁法の改良も重ねて鰹節の一大産地として成長していった。明治以降は漁港の近代化を進め、南洋へのカツオ漁も推し進め、質量共に日本一に。現在、鰹節製造業者の組合企業は45社。
枕崎漁港沿いの県道32号を歩けば、街の物産センター「枕崎お魚センター」や公営のカツオ加工品販売所「枕崎市かつお公社」のカツオのオブジェが目につく。漁協の屋上にだってカツオのオブジェ、枕崎駅のホームにだってカツオのオブジェ。枕崎市かつお公社の出入り口や漁港の堤防ではためいているのも鯉のぼりではなく、カツオのぼり。しかも一年中カツオのぼりを揚げている。
漁港の原公園に行けば、そこにもやはりカツオのオブジェと「漁師の群像」の像がある。漁師の群像は明治時代のカツオ漁を表しているとか。その向かい側には母子三人の「かつお節行商の像」が立つ。経年劣化もあるのだろうが、どこか哀し気な雰囲気だ。それもそのはず、明治28年に起きた台風による漁船沈没で、枕崎とその周辺で700人以上の漁師が亡くなった。大黒柱を失った母子家庭が鰹節のばら売り行商を始めたという。「鰹節は、いいやはんかなあ(いりませんか)」と九州南部を売り歩いた。それが枕崎の鰹節を広めることにもなったとか。同じモチーフの銅像が枕崎駅前の広場にもある。カツオ漁と鰹節なくして、枕崎市は語れない。
カツオオブジェだけではない 枕崎市は青空美術館の街
枕崎の街を歩いていると、そこかしこに現代アートのオブジェがあるのに気づく。いたって小さな市街地なのだが、主な通り沿いには実に様々な立体作品が点在している。実は枕崎市は「青空美術館」と名づけた街づくりを行っている。市役所通りや中央通りなどの主要な通りや市の文化資料センター「南溟館(なんめいかん)」敷地など、計9か所、総数100点が青空展示されているのだ。
これだけの数の作品で、しかも全国の若手作家作品を集めている。実は枕崎市は平成元年(1989年)から平成25年(2013年)まで、10回にわたる現代アートの全国公募展「風の芸術展」を実施してきた。審査員は洋画家の故野見山暁治ら、錚々たるメンバーが担当。その後も「枕崎国際芸術賞展」を開催し、「現代美術でのまちおこし」を続けているという。
材質も形も大きさも様々な立体作品がここにも、そこにもとある。街中のぶらり散歩に美術鑑賞の楽しさを与えてくれる。因みに枕崎駅の「かつお節行商の母子像」も青空美術館作品群の一つなのだ。「南溟館」敷地には第1回風の芸術展大賞作品の「天の魚」をはじめ、作家と市民が共同制作した100点目の「枕崎 この地に生きる~大切な命~」や「風の帆」など12点を見ることができる。枕崎は鰹節の街、だけじゃない。全国的にも貴重な芸術の街でもあると再認識させられた。
枕崎で食すならカツオ料理! いや、鹿籠豚料理も捨てがたい
散歩をすれば腹も減る。枕崎ならやはりカツオ料理。カツオを食べずして枕崎を語るな、である。カツオ漁は2月から5月がピークだが、実は9月半ばから11月にかけてもカツオが水揚げされる。新鮮なカツオをタタキで味わいたいところだ。さらに市内の飲食店ではご当地グルメの「枕崎鰹船人(ふなんど)めし」を提供している。白飯の上にカツオの切り身あるいはタタキに本枯節を乗せ、枕崎鰹節と昆布の合わせ出汁をかけるのが共通ルールで、元は漁師飯だ。
2024年春にリニューアルした「枕崎お魚センター」の「枕崎みなと食堂」では、この船人めしに本枯れ節の「追い鰹節」が好きなだけ盛れる。カツオの切り身、刻みネギ、刻み海苔、海藻つくだ煮、そして本枯れ節を盛った丼に熱々の出汁をかける。鰹節の香りがパーッと広がり、鼻腔をくすぐる。追い鰹節を足せばなお旨みが増す。さらに鰹出汁は飲み放題!食後は土産店で鰹節購入となるのは必定。
さて、枕崎の隠れた名物、知る人ぞ知る名品をもう一つ。それは鹿籠豚(かごぶた)だ。鹿児島と言えば黒豚だが、鹿籠豚もれっきとした黒豚であり、しかも日本初のブランド豚なのだ。戦後間もない時代、南薩鉄道鹿籠駅から東京へ出荷された豚に「鹿籠」の札をつけたところ、その肉質の良さがたちまち評判に。「鹿籠」とは江戸時代までの枕崎の名称であり、南薩線鹿籠駅は現在のJR枕崎駅に隣接していたという。
時は流れ、現在「鹿籠豚」のブランドで豚を育てている牧場は市内に1軒のみ。もちろん鹿児島県黒豚生産者協議会の会員農家だ。市内で鹿籠豚を食べられる飲食店は数少ないが、枕崎駅近くの「味処 一福」ではロースカツ、角煮をはじめ、ハンバーグや塩焼きなどを提供している。甘みがありとろけるような脂、柔らかな肉の繊維、ふっくらとした肉の感触。やっぱり鹿児島の黒豚だけのことはある!もちろん、市内でも老舗の名店だからこその技もある。
枕崎、地味なようだが実は奥が深いじゃないか。
枕崎市文化資料センター 南溟館
所在地 鹿児島県枕崎市山手町175
電話0993-72-9998
時間 9:00~17:00(最終入館16:30)
休館日 月曜(祝日の場合翌日) ※特別企画展の場合は無休になることも
枕崎市文化資料センター 南溟館公式サイト
枕崎お魚センター
所在地 鹿児島県枕崎市松之尾町33-1
電話0993-73-2311
営業時間 9:00~17:00(レストランは11:00~14:00)
休館日 不定(レストランは第3水曜)
枕崎お魚センター公式サイト
味処 一福
所在地 鹿児島県枕崎市東本町8
電話0993-72-3347
営業時間 11:00~14:00、17:00~20:00
定休日 不定
味処 一福公式サイト