阿蘇を突っ走れ!緑の山を突っ切れ!
阿蘇を突っ走れ!緑の山を突っ切れ!

街中を自転車で走る。日頃、運動不足な筆者にとってそれだけで気持ちいい。では大自然の中なら、それはもう爽快以外のなにものでない!そうだ、阿蘇の山を自転車で走ろう。運動不足だろうと大丈夫。道の駅阿蘇が主催している「牧野(ぼくや)ライド」なら、電動マウンテンバイク(e-bike)利用で専門ガイドが案内してくれるのだ。
普段は入れない牧野を独り占め!

阿蘇は「草千里ヶ浜」に代表される日本最大級の草原が広がる。阿蘇山を中心に約1万3千年前からススキ属主体の草原が形成され、千年以上前に人が住み着いて以来、牛や馬の放牧が行われている。「阿蘇くじゅう国立公園」の一部であり、ユネスコの「世界農業遺産」や「世界ジオパーク」にも認定されている。そして放牧地は「牧野」と呼ばれ、牧野組合員以外は普段は立ち入り禁止だ。
「牧野ライド」は立ち入り禁止の牧野を特別に解放し、ガイドが牧野の魅力を案内してくれる特別なプログラム。全国でも唯一無二の体験ができる。「道の駅阿蘇」を運営するNPOP法人ASO田園空間博物館が牧野体験「牧野ガイド」の一環として、2018年12月から提供している。完全予約制で個人でも2名以上なら体験可能だ。コースは3時間(22,000円)と6時間(27,000円)の2コース。体力や旅のスケジュールで選ぼう。保護者同伴なら小学生(料金半額)でも参加可能。
※料金には電動マウンテンバイク(e-bike)・ヘルメット・肱プロテクター・膝プロテクターの各レンタル、保険、ガイド料、そして1,000円の牧野利用料を含む。

阿蘇の風を五感に受け止めて走る!

牧野ライドの集合場所は道の駅阿蘇。まずは簡単なEバイクの説明と乗り方の練習から。ブレーキやギアチェンジのコツさえつかめればOKだ。e-bikeの操作ならしも兼ねて駅から30分ほど走って牧野に到着する。牧野に入る際には石灰をタイヤと靴で踏んで消毒。普段は赤牛などの放牧地なので、口蹄疫などのウイルスや病原菌の侵入を防がなければならない。立ち入り禁止の牧野に入るためのルールだ。さあ、後はガイドインストラクターの後をついて牧野ライド開始!

最初は比較的平坦な場所で、これなら楽ちんとペダルを踏む足も軽い。やがて適度なアップダウンが現れ、場所によってはのぼり斜面でバイクから降りてバイクを押したり。その後は当然下り斜面で猛スピードに。普段からスポーツバイクを乗りこなしている人は楽に走っている…。いやいや自分の体力、バイクスキルに合わせて走ればいい。
とにかく風を感じて気持ちいい。空気が美味い!視界は広い!下り斜面ではどーんとぶつかってくるような風を突っ切る。平坦な場所では緑の風が優しい伴走者になってくれる。抜けるような青空が見守ってくれる。阿蘇の山々が包んでくれる。
牧野の営みを教えるライド

さて、阿蘇の牧野は地域の営みを守る場所であり、大切な地域資源。実はススキ属主体の草原は自然放置されると荒廃してしまう。そのため早春の野焼きが欠かせないのだとか。「野焼き・採草・放牧といった営みが繰り返され、ヒゴシオンやヒゴダイ、オオルリシジミなどの多様な動植物の生態系の維持にもつながる」とガイドさん。時折バイクを止めては貴重な話を聞かせてくれる。草原の保水力が阿蘇の伏流水を支え、豊かな水資源に深く関わっているのだとか。
現在、牧野を守る畜産農家も高齢化などで減少している。野焼きが廃れると草原は荒れ野になってしまう。千年続く牧野を守ろうと始まったのが「牧野ライド」でもあるという。バイクを降りて足元を見ると小さな山野草が咲いているのに気づく。素朴な花もこの阿蘇の草原の大切な「仲間」。阿蘇には国内ではここでしか見られない山野草も多く、中には絶滅危惧種、準絶滅危惧種も。牧野の営みがあって花を咲かすことができるのだ。


ライドだけではない牧野ガイド

「牧野ライド」は電動マウンテンバイクで阿蘇の牧野を体験するが、道の駅阿蘇の「牧野ガイド」プログラムは他にもトレイルラン、トレッキングがある。阿蘇の自然をじっくり観察したい人にはトレッキングがお勧めだ。牧野組合員などのガイドが案内し、牧野を散策して通常の阿蘇観光コースでは見られない景色を体験できる。また、近年は牧野でのコスプレイベントをする参加者がいるとか。大自然をバックに、高低差を活かしたダイナミックな撮影ができるのが人気の理由。
何より、普段は入れない牧野を舞台に阿蘇の自然を満喫できる。それこそが非日常体験、旅だからできること。さあ、もう一走り阿蘇を突っ切るか。

牧野ライド