今村天主堂

世界文化遺産に登録されている、長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産。
誰もが「キリシタン」や「教会」といえば長崎を連想する。
しかし、実は他にも長いキリシタン史を持つ地が九州にはある。

知られざるキリシタン秘話
地域の資材を使い建てられた天主堂

 福岡県南部の筑後地方に位置する大刀洗町は、かつて隣接の筑前町にかけて大刀洗陸軍飛行場や大刀洗陸軍飛行学校があった。今は筑後平野の田園地帯が広がり、のどかな印象がある。そんな町に潜伏キリシタンの歴史があるとは意表を衝かれるかもしれない。
 しかし1560年代には、筑後地域に約7千人もの信者がいたという。キリシタン大名の大友宗麟が筑後地域を支配下においたり、当時の筑後の久留米領主・毛利秀包もまた熱心な信者だったりしたことなどが背景にあるとされる。その後の弾圧で信者数は減ったものの、「今(今村)」の信者だけは代々にわたって信仰を貫いてきた。
 長崎の浦上や五島等の信者同様、死者が出れば寺で葬式をし、その後墓地で密かにカトリックの祈りを捧げるなどしてきた。禁教廃止直前には、長崎浦上の信者とも連絡を取り合っていたとされる。キリシタンであると知られれば拷問・処刑という時代、離島などの僻地ではなく平野部の農村で信仰が守られてきたことは「奇跡」だという。

 
祭壇の大天使ミカエルが見守る堂内。天井はこうもり天井と呼ばれるリブ・ヴォールト天井※写真は大刀洗町役場提供。内部の写真撮影禁止
正面に八角形の2つの塔(高さ22.5メートル)を配置したロマネスク風。国内では珍しい
聖歌隊席から見た内観。内部は三廊式で、身廊部の壁面は三層を成す※写真は大刀洗町役場提供。内部の写真撮影禁止
フランス・ルルドの奇跡の泉を再現した洞窟に立つマリア像
 

 そして明治になり、信仰の自由を得た信者はほぼ全員がカトリック教会に復帰した。念願の教会堂が建ったのは大正2(1913)年。長崎で数多くの教会建築を手がけた鉄川与助が設計・施工したロマネスク風、赤レンガ造りの教会、それが今村天主堂である。当時の本田保神父が諸外国、特にドイツから多額の浄財を集め、信徒たちが労働奉仕して完成にこぎつけた。祭壇の下には禁教下の指導者であり、殉教したジョアン又右衛門の墓があると伝えられる。
 今、目の前に見る教会堂はドーム屋根の二つの塔を持ち、堂々たる風格を放つ。国内に残るレンガ造りの教会として貴重な価値があり、国の重要文化財に指定されている。教会前の受付所にいる女性二人が「午前中はステンドグラスに朝日があたり、すごくきれい。瓦も城島町のものなど、殆んどが地元のもので造られているんですよ」と誇らしげに胸を張る。二人とももちろん信者だ。現在信者は千人ほどとか。「青木」「平田」の名が多いと笑う。知られざる潜伏キリシタンの町、奇跡の町。世界遺産だけではない、もう一つの教会巡りの旅をしてみよう。

 
鉄川与助が設計・施行し、随所に和洋折衷の工夫が見られる
ステンドグラスはフランスから取り寄せた
赤レンガは千代田町(現神埼市)向島のレンガ工場に特注
ステンドグラスはフランスから取り寄せた
 

今村天主堂

福岡県三井郡大刀洗町今707

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