中江岩戸神楽

日曜の昼下がり、山間の集落に笛や太鼓の音が鳴り響く。
舞い手は時に穏やかに、時に勇壮に舞う。
神々の物語を舞う神楽は父から子へ伝えられ、小さな集落の歴史を紡いでいる。

神楽のヒーローを受け継ぐ波野・中江岩戸神楽

 阿蘇市波野は中江・横堀の2つの集落で神楽が受け継がれている。そのうち中江集落の「中江岩戸神楽」は約250年の歴史を持ち、国の選択無形民俗文化財指定。現在は10月の「道の駅波野」での「神楽フェスティバル」参加を除く4月から11月の第1日曜に萩神社隣の、専用の屋外神楽殿で定期公演を行う。観覧は無料だ。保存会会長の佐藤義勝さん(71)らは、過疎と高齢化が進む中、地域の小中学生にも神楽を指導し、後継者育成にも余念がない。
 その子供たちの演目は、神楽の基本である「五方礼始」。ゆっくりとした舞いで東西南北と中央の「五方」を清める。笛・太鼓の奏者もまた袴姿の子供たち。あどけない顔と、まだおぼつかない動きが観客のほほえみを誘う。この後の演目の順番は、実はその日の天候などの状況次第。中江岩戸神楽は天岩戸神話を基にした三十三座の演目を持ち、その中から4から5演目を選ぶという。

 
狩衣などの衣装の着付けを父兄に手伝ってもらう子供たち
「天の〆」の冒頭は八百万の神々の舞い。この後、スサノオノミコトは高天原に行き、姉の天照大神から榊と鏡を与えられる
 

 天岩戸神話と言えば、暴れ者の神スサノオノミコトが主役。「神楽は動きが激しいから、歳を取ったら息が上がってしまう」と佐藤さんは苦笑い。勇壮で激しい舞いは孫の大地君ら高校生が担う。かつて佐藤さんのスサノオノミコトを見て、「じいちゃんのような(神楽の)ヒーローになる」と幼い頃に誓ったという。佐藤さんの息子の弘明さんもメンバーだ。今では佐藤さんが大太鼓を叩き、弘明さん、大地君が舞う。親子三代共演だ。
 さて、そもそも神楽は地上に降りた神と人が交わる宴。「柴曳」では観客と榊を引っ張り合い、客席の幼子を抱きあげたりする。「天の〆」では、屋外に立てられた青竹にスサノオノミコトが登り、観客に紅白の餅をまく。そしてクライマックスは八岐大蛇退治で知られる「八雲払」。おなじみの物語だが、ドライアイスの演出もあり、なかなかの迫力。帰り際には農産品のお土産までもらえる。やはり、神楽は農村のロングランエンターテイメント。地上に舞い降りた神々の化身が、村の休日を楽しませてくれる。

 
「八雲払」のスサノオノミコト。佐藤大地君が祖父譲りの「ヒーロー」を演じる
「柴曳」で観客の少女とアメノコヤネノミコトが榊を引っ張り合う
 

道の駅波野

熊本県阿蘇市波野村小地野1602
0967-24-2331
営業時間 8:00~19:00
定休日 1月1日
アクセス 九州自動車道熊本ICから約1時間20分
※中江岩戸神楽の問い合わせは阿蘇市観光課 ☎0967-22-3174